この記載内容は、アルバック・グループのコミュニティ誌「ULVAC」No.28号のP14〜P15(1995年4月発行)より転載しております。記載内容は発行当時のもので、現在とは異なる場合がございます。
グルメ食品に変身したフリーズドライ食品
----味をおとさず水分除去、凍結真空乾燥装置が活躍----
わが国の年間最終消費支出は約225兆円。六七兆円が飲食費で、そのうち、食品工業の年間出荷額は35兆円。大部分は加工食品で占められ、さらにそのなかでもインスタント食品が上位にあるという。 最近のインスタント食品は、即席麺しかなかった頃と比べものにならないほど。品数、品質すべての面で一段と向上した。また、昨今のグルメブームでそのクォリティにますます拍車がかかり、美味しいものだけが生き残る権利が与えられる厳しい加工食品業界。 その加工食品のなかでも凍結真空乾燥を利用したフリーズドライ(FD)食品は、こうしたニーズを満たす有効な製造方法として数年前から注目を集めている。そこで今回は、ULVAC製凍結真空乾燥装置をいちはやく導入され、わが国有数の食品加工技術で次々にヒット商品を開発されている仙波糖化工業(株)(栃木県真岡市)を訪ね、FD食品について取材した。
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宇宙飛行士向井さんのインスタント食品
今日の献立は、すき焼き、八宝菜、ビーフストロガノフ、クリームソース煮、……何にしようか。付けあわせにはみそ汁もいいな、いま人気絶頂のたまごスープもおいしそう。いっそ、もうすこし気張って、フカひれスープ、それにご飯は美味しいササニシキ米。
これらが全部インスタント食品というから驚きだ。調理には、鍋やフライパン、調味料も一切いらない。沸騰したヤカンのお湯をかけるか、あるいはパックごと電子レンジで温めるだけ。それだけでリッチな一流シェフの味が瞬時のうちに味わえる。
カップラーメンの出現で舌鼓を打っていた頃がなんとも素朴で、なつかしくなる。さらに、インスタント食品といえばこんな話もある。
1994年7月8日(米国現地時間)スペースシャトルで宇宙に飛び立った向井千秋さんのことだ。
向井さんの元気のもとは和風宇宙食にあった。じつはその宇宙食、フリーズドライや高圧処理でつくられたインスタント食品だったのだ。
メニューは、全国から寄せられた1700点から選ばれたグルメ料理ばかり。そのなかで最優秀作品に選ばれたのが「大地より愛を込めて」と名付けられた高野豆腐にひき肉、しいたけなどを加えて煮た家庭の味。そのほかスペースシャトルに持ち込まれたインスタント食品は、肉じゃが、五目たきご飯、たこ焼きなど9点にのぼった。
ちなみに、たこ焼きは直系3センチ程度、周囲はこんがりきつね色。中身にはたこ、紅しょうが、きゃべつなど具もたっぷり。お湯を加え、約10分でできあがる。「どれもみな美味しかった」と宇宙飛行士の間では大評判だったとのこと。
素材の味そのまま復元可能なFD食品
インスタント食品を侮ってはいけない。インスタント食品がこんなにも普及したのは、われわれのライフスタイルの変化に大きく影響しているといわれる。
核家族化で自炊する機会が多くなった新入生、新社会人や単身赴任のサラリーマン。また、女性の職場進出で家庭料理が崩壊(?)。さらに、外食産業、コンビニエンスショップなど、若者を中心とする食文化の変化――などで、便利で簡単なインスタント食品のニーズはますます高まるいっぽう。また、最近では「便利で簡単」ばかりでなく、グルメ志向が強く、同時に美味しさも求められていることも事実だ。
これらが要因となってインスタント食品は、保存性、簡便性重視の時代からクォリティ重視へとのの付加価値も変化している。
加工食品は次の三つに大別される。1.冷蔵・冷凍食品、2.ビン詰・缶詰・レトルト食品、3.乾燥食品――だ。その中でも3.の乾燥食品は、水分が除去されているので軽くて、形状がコンパクトになることから、包装、輸送、保管、流通、調理などさまざまな面で優位性を持っている。
さらに乾燥食品のなかでも、凍結真空乾燥法を利用した食品は、他の製造技術に比べ、食材の味を損なうことなく加工されるので1965年頃より注目されてきた。
 凍結真空乾燥法とは、食材を氷点以下で凍結させ、真空中で昇華によって水分を除去する方法のこと。この方法で作られた食品のことをフリーズドライ(FD)食品という。凍結真空乾燥は、低温で乾燥を行うことから、生の風味が保持でき、栄養成分や香気成分の損失が他の製法よりはるかに少なく、組織形状の保持にもすぐれている。多孔質でしかも復元性のよい乾燥食品が得られる。
FD食品は、粉末ミソ汁、即席麺、ベビーフーズ、インスタントコーヒー、スープ、ふりかけ、茶漬など数え上げればきりがないほど、いろいろな食品に利用されている。
外食産業を中心に発展するFD食品
ULVACの凍結真空乾燥装置(DFBシリーズ)は、当初、血清、ワクチン、抗生物質などに代表される医薬品向けが主流だったが、徐々に食品業界へも浸透していった。 わが国を代表する乾燥食品加工で定評のある仙波糖化工業(株)は、コーラ飲料やプリンなどに利用されるカラメルのトップメーカー。1976年にULVAC製凍結真空乾燥装置を導入され、FD食品へ本格参入された。大手即席麺メーカーなどを中心に、インスタントラーメンやスープの乾燥具材も数多く納入されている。 また、同社で製造しているFD食品の中でユニークなのは、山芋を凍結真空乾燥でパウダー状にした「本とろろ」。水で溶くだけで簡単に風味豊かな美味しいとろろができあがる。「本とろろ」は仙波糖化工業独自の技術を投入し、1978年頃より販売を開始。いまや、自社ブランド製品として和菓子業界、外食産業を中心にその知名度は高い。
 「基本的にはどんな食材でもFD食品になり得るわけです。これまで顧客からリクエストがあれば野菜や肉、魚などあらゆるものをフリーズドライしてきました。
今後もFD食品の市場は確実に伸びます。特に、外食産業向けがかなり期待できますが、外食産業向けであることから保存性はもちろんのこと、簡便で、しかも美味しくなくてはなりません。クオリティの高いFD食品がますます求められることでしょう」と答えるのは同社技術研究所所長/技術士の土田茂取締役。
毎年五千〜六千種類もの新製品が登場している加工食品市場。その製品の生き残りは、激烈を極める。美味しいものだけが生き残る権利を得るという、じつにドラスティックな世界が展開される。趣味の多様化とともに食品指向も多様化傾向にある。食品業界は新たなヒット商品を模索しているのは事実だ。
数年前からのグルメ志向で美味しいものが「文化」として定着しつつある今日、お湯をかけるだけで゛豊な食文化゛が見え隠れするFD食品業界も同じように模索している。今後もあっと驚くユニークな新製品の登場が期待される。
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