身近な真空
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この記載内容は、アルバック・グループのコミュニティ誌「ULVAC」No.36号のP16〜P17(1999年3月発行)より転載しております。記載内容は発行当時のもので、現在とは異なる場合がございます。

「減圧貯蔵」でおいしいご飯を食卓に ----実用化にはランニングコストの低減がカギ----

米を主食とする日本人にとって、「よりおいしいこ飯を食べたい」とする希望は強い。そういう理由もあって、ここ数年来特に、新潟のコシヒカリ、宮城のササニシキなど、ブランド米に固執する人々は多い。しかし、同じ収穫米でも、もみの処理法、保存方法によって、味が変わってくる。
 そこで、今回は五〇年近くも稲米の研究を続けてこられた東京農業大学の太田保夫教授に、おいしいこ飯を食卓にのせる方法の一つとして注目を浴びている真空による「減圧貯蔵」についてお話をうかがった。  先生は、東京農夫の熱帯園芸学研究室を通じて、砂漠の緑化などで途上国に協力されておられる方で、青年海外協力隊の技術顧問でもある。  また、農学博士で、「種物の一生とエチレン」「イネという作物」などの著作がある。
減圧貯蔵

米は二〇〇〇年におよぶ日本文化の遺産

稲が日本でつくられるようになったのは、今から約三〇〇〇年位前の、縄文時代の末期とされている。
稲をつくる前は、森林を焼きはらって、ヒエやキビ、ナガイモなどをつくっていた。そのような作物は、何年かつくると土地がやせてくるので、よく育たなくなる。そのため、人々は別の土地に移らなければならなかった。ところがイネは水を湛えてつくるので、何年つくってもよく育つ。しかも、とれた米は、長い間貯蔵することもできる、そうした理由から、人々はイネをつくるようになってからは、一つの土地に定住するようになったという。

そうはいっても、日本人の祖先たちは、せまい土地からたくさんのおいしい米を安定してとり続けるために、さまざまな工夫と努力を続けてきた。いま、われわれが食べているおいしいご飯は、二〇〇〇年におよぶ日本の文化の大きな遺産ともいえる。(「イネという作物』から引用)

今回の「暮らしと真空」で、ご紹介する話は、こうして収穫した籾を、どのように貯蔵(保存)すれば、味をおとすことなく、食卓に乗せることができるかという技術の紹介である。

太田教授は、稲の研究を始めてまもなく五〇年になるというベテラン研究者。 その太田先生は、「稲についてどんなに研究をしてみても、まだまだ、その奥が深い、一昔から"捻るほど、頭の垂れる稲穂かな"といわれているが、学べば学ぶほど、稲については、判らないことが一杯だ」と話される。以下に、太田先生のお話の要旨をご紹介する。

熱風乾燥は米の味を落とす

暮らしと真空 一つの稲穂には、通常、八〇粒から一〇〇粒のもみが着いている。このもみをよく観ると、二つの籾殻(内えいと外えい)が大切な玄米をしっかり覆っている。 この玄米は、やがて芽を出したり、根を出す胚部と、その成長を助ける養分を蓄えている胚乳部とからできている。
ここで不思議なことがある。玄米のなかで一番大切な部分はこの胚部だが、必ず穂の内側を隠すようにもみがついている。
私たちがおいしく食べているご飯は、玄米のヌカ(糠)層を取り除いて精白し、白米にしたもの。この白米の部分は、稲の幼芽や幼根が成長するのに必要な養分の貯蔵庫となっている。私たちはその稲の幼芽・幼根の成長に必要な養分を勝手に横取りして、食しているわけである。
玄米の表面を覆っているヌカ層には、胚の中に分化している幼芽や幼根を成長させるのに必要な植物ホルモンやビタミン類が含まれている。ヌカ層を全部剥ぎ取ると、幼芽や幼根はほとんど伸長しない。
つまり、白米はカス(粕)なのかも知れない。  やがて収穫期になると、稲田にはコンバインの音が響く。
コンバインの導入で一挙に収穫作業が省力化され、稲作の規模拡大に目途がついたのである。

ところで、このコンバインの収穫では、まだ、田の中に稲が立っている状態のもとでの籾の水分が約二三%位の時に脱穀されるのだが、まだ十分に穀粒が固まっていない。 回転ドラムに打たれて、たたき落とされる際に、モミはその衝撃で打撲傷を受けることになる。 その後に、さらに熱風乾燥で水分を二〇%以下にする。
熱風乾燥といっても、テンパリングといって、直接、穀粒内部の温度が上昇しない工夫をしてはいる。
しかし、しょせん、打撲傷の治療に熱風は不向きである。
 そこで、新食糧法になったのを機に、私は低温除湿によるモミの乾燥と減圧貯蔵を提案した。
写真@のように、低温除湿で乾燥した米の発芽は熱風乾燥に比べはるかに良い。

米国で生まれた減圧貯蔵法

ここからは、本論ともいうべき「減圧貯蔵」について述べていこう。
米国のマイアミ大学の著名な植物生理学者バーグ夫妻は、一九六六年に、果実、生花などの鮮度を維持する画期的な方法「減圧貯蔵」についての論文をサイエンス誌に発表した。
この方法は、在来のCA(コントロールド・オブ・アトモスフェア=炭酸ガス四%、酸素四〜五%の雰囲気に保つ方法)貯蔵に比べ約三倍の貯蔵ができるという。

この減圧貯蔵法というのは、絶えず通気しながら減圧条件を保ち、貯蔵果実の発生するエチレンを積極的に除去し、さらに、減圧条件下で酸素濃度の低下に伴うエチレン生成の抑制と呼吸作用の抑制を、同時にやってのけようとするもの。 つまり、減圧条件下で、確実にエチレンフリー環境をつくり出すことに成功したのである。

それから数年後、太田さんらは、農林省生物資源研究所在籍中に、国から約四〇〇〇万円の予算を得て、実験用減圧貯蔵装置を試作し、リンゴの長期貯蔵に成功した。

それとほぼ時を同じくして、バーグの減圧貯蔵装置が、突然、日本に上陸してきた。全国農業協同組合連合会がグラマン社から輸入したもの。 この装置はバーグ夫妻からの技術供与によって、グラマン社が完成した。

このような減圧貯蔵法の普及とともに、この技術を米に応用できないか---とする動きが生まれてきた。 それは「この頃の米は熱風乾燥するので、食味が落ちた」とする新聞報道があったからでもある。

減圧貯蔵の原理(図2参照)を応用して、高水分の穀粒を減圧して、含水率をできるだけ速く二〇%以下に保つようにしたい----というのが目標。減圧すると穀粒の水分が失われ、穀温も下がる。その後、いったん減圧を中断して、穀温を外気温まで上げて、再び減圧する方法を繰り返してみると、一回の減圧によって、水分は約二〇%低下することが判った。

この方法を数回繰り返すと、まったく加熱することなしに、穀物の乾燥ができる。穀粒の減圧貯留乾燥は、穀粒からのエチレン生成を抑えるので、呼吸作用の増大を防ぐこともできる利点もある。
暮らしと真空
新米の味がいつまでも保持されるような、米穀の収穫調整および長期貯蔵法の開発にも、今回の減圧貯蔵法の本格導入か期待される。しかし、その実用化に当たっては、設備費やランニングコストの低減がカギになりそうである。

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