身近な真空
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この記載内容は、アルバック・グループのコミュニティ誌「ULVAC」No.30号のP14〜P15(1996年4月発行)より転載しております。記載内容は発行当時のもので、現在とは異なる場合がございます。

魔法びんがつくる新しいライフスタイル
----魔法びんと真空の深い関係----

魔法びんと真空。いったいどのような係わりがあるのだろうか。日本語では魔法びんというが英語では、"Vacuum Bottle" と呼ぶ。保温性をよくするため、二重構造の容器の内部を真空にすることからこう呼ばれている。
さらに最近ではガラス材のほかにステンレス材の魔法びんの登場で、その加工に真空ろう付け技術が活躍している。まさに、魔法びんと真空技術は切っても切れない仲だったのだ。そこで、魔法びんにおいて世界でも抜群の知名度を誇るタイガー魔法瓶株式会社の大阪本社をお訪ねし、真空と魔法びんとのふか〜い関係について調べてみた。
魔法瓶

わが国の魔法びんの歴史

昭和30年代まで、家庭には必ず火鉢があった。そのおかげでいつでも暖かいお茶が飲めた。いま、家庭には火鉢がない。しかし、いつでもお茶やコーヒーが飲める。屋外でも同じように暖かくあるいは冷たく保温された飲み物が手軽に飲める。まさに魔法のような話だ。これが可能になったのも゛魔法びん゛のお陰といってよい。
では、この魔法びんにはどのような歴史があるのだろうか。
1881年、ドイツのヴァインホルトは液体ガスを保存するため、二重壁のガラスびんをつくり、壁間の空気を抜き、伝導、対流による熱の損失を防ぐことを実験した。これは外から中身を見ることができるので、実験医療用として注目された。
また、1891年イギリスのデュワーは、液体酸素保存用に金属容器を二重壁とし、両壁間を真空にして熱の発散を防ぐことに成功。続いてガラスの二重壁をつくり、内側に銀のメッキを施し、輻射による熱の損失を防ぐことにも成功した。これを「デュワーびん」という。今日の魔法びんはこの二人がルーツだ。
わが国には1910年頃、ドイツ製の「テルモスびん」が輸入されたのが始まりとされている。当時、゛保温・保冷二四時間保証真空びん゛という宣伝文句で売られていたが、その翌年には、国産第一号がつくられたというから、当時の日本人の知的好奇心とバイタリティには驚かされる。しかし、かなり高価であったことと、常に火鉢でお湯を保温する習慣のあったわが国ではすぐには普及しなかった。
ところが、第一次世界大戦勃発で、ヨーロッパでは魔法びんの製造ができなくなり、その影響ですでに魔法びんが普及していたヨーロッパ諸国の植民地であるアジア、インドなどの国々への輸出が滞った。そこで、なんとか製造できるレベルまでに達していた日本に魔法びんの注文が殺到するようになった。
この時、ガラス工業が盛んだった大阪を中心に魔法びんメーカーがつぎつぎに設立された。また、わが国の魔法びんメーカーには、動物を商標とする会社が多いのも輸出を中心としたその当時の名残りであろうか。

日本は世界有数の魔法びん生産国

高度成長の波が徐々に現われ始めた昭和30年代、魔法びんはようやく家庭の食卓に並んだ。オートメーション化され、より安く、より多く生産できるようになったからだ。
昭和40年代に入ると、わが国の魔法びんは、ついに生産量、輸出量ともに世界の頂点に立つこととなった。デザインも洗練され、゛花柄魔法びん゛はブームになるほどであった。
1978年には、従来のガラス製魔法びんに加え、日本で開発されたステンレス製魔法びんが登場した。ガラスの弱点であった強度の面もこれにより一段と改良され、画期的な商品となった。ステンレス魔法びんは米国などですでに開発されていたが、保温するために、中に粉末断熱材を使用。粉末断熱材はNASAの宇宙計画の開発技術であった。
一方、日本で開発された魔法びんは、保温に真空を利用しており、粉末断熱材使用の米国のものに比べ軽い。
このため、当時のレジャー志向の時流にものり、食卓用品の魔法びんからアウトドア用品の一つとして欠くことのできない商品となった。

チップ管から真空ろう付けへ

魔法瓶の製造工程 ここで魔法びんの保温原理を述べることにしよう。
魔法びんは二重構造。二重構造のびんの隙間は真空となっている。空気中では酸素や窒素などの分子が熱を奪い去ってしまうが、真空にすることで、これら分子が極端に少なくなるので熱が分子から分子へ伝わりにくくなるので、保温・保冷効果が実現できるのである。
ガラス製魔法びんの場合、表面は透明ではなく、銀がメッキされている。銀メッキは、熱の輻射効果を向上させるために使用しているのだ。
また、外びんの底に゛チップ管゛が取り付けられている。このチップ管は、二重構造のびんの内部に銀色のメッキ材を流し込むための注入口の役割を果たしている。真空にするための空気の排気口にもなるものだ。最後に、このチップ管を密封して一連の作業が終了するわけだが、チップ管方式に利用すると、最終的に密閉する作業が煩雑となるなど、加工時間と手間がかかるのでコストがかさむ。また、ガラス材は、割れやすいのでそれを保護するために金属あるいは合成樹脂製の保護ケースが必要となるため大きくなるという欠点もあった。
しかし、ステンレス材の登場に伴い、チップ管方式に代わる新しい加工方法の検討がなされた。そこで新しく採用されたのが゛真空ろう付け゛方式だ。
真空ろう付けは真空炉の中で、「真空排気」と「封止工程」を同時に行う加工方式。約1,000度Cの真空炉の中で、金属のろう材を溶かし、ステンレスを接合して魔法びんをつくる方法だ。
最近では金属のろう材の代わりにガラス材を使用する方法が開発され、温度も約500度Cと低温で真空封止が可能となった。また、高温による焼鈍効果がなくなることで薄板の使用が可能となり、容器の強度も上がった。この結果、びんの真空の隙間は、3ミリへと従来より2ミリも薄くなり、薄板使用でさらに軽量化を実現した。このように真空ろう付けはチップ管では得られなかった完全密封や軽量化などステンレス素材を生かした技術として貢献ている。

ステンレス材使用でバリエーションも豊富に

真空ろう付け炉 ステンレス魔法びんは、使用用途によりそのバリエーションは実に多彩だ。
例えば、コンパクトで手軽なミニボトル、クラブ活動など多人数で使用するビッグサイズボトルなど、さまざまなサイズがある。また、父さんのゴルフ、家族で楽しむハイキング、二人っきりのドライブや乳児のミルク用にまで、利用する年齢層も実に幅広い。それぞれのTPOに応じた多種多様な魔法びんが揃えられている。
最近ではコップ感覚で手軽に利用できるスリムでスマートな魔法びんも開発されている。
飲み物専用の魔法びんばかりではない。ランチジャーと呼ばれる゛弁当箱゛にもこの保温技術が利用されている。さらに、その保温技術を利用して、「調理鍋」も商品化されている。
゛魔法のナベ゛と呼ばれるこの鍋は内鍋と外鍋に分かれている。内鍋は直接火にかけることができる。それが加熱できたところで、真空保温構造の外鍋にセットして保温するわけだ。
シチューやおでん、おかゆなど、沸騰させてはいけないもの、長時間煮込む必要のある料理など、直火を嫌う料理に適している。
保温のみを目的としてきた魔法びんは、その時代の最新技術との融合で、新しいニーズをつくりだすヒット商品の一つにまで進化してきている。
その商品開発力は、われわれのライフスタイルの変化を実に敏感に感じ取っているからだ。魔法びんメーカーにこのようなパワーがある限り、日常生活に有益な商品を提供し続けてくれることだろう。

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